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アフガニスタン、ダリー語について

映画『オリーブの林をぬけて』をDVDで観て

olive trees

Ulrike LeoneによるPixabayからの画像
 

こんにちは。

先日からアッバス・キアロスタミ監督のسه‌گانه کوکر コケル3部作を見ています。

今日は3部作のうちの3本目、『オリーブの林をぬけて』の感想を書きます。

 

この映画について

題名:『オリーブの林をぬけて』
原題: « زیر درختان زیتون »

監督・脚本:アッバス・キアロスタミ

制作年:1994年

イラン作品

 

あらすじ

この作品は1990年のイラン北部を襲った大地震から1年後の話です。

コケル3部作の2作目『そして人生はつづく』に出演した新婚夫婦役のラブストーリーで、夫役を演じるホセインが、妻役のターヘレに熱い想いを寄せています。

地震が起こる前、ホセインはターヘレの家の向かいで煉瓦職人として働いていました。
ターヘレの母親に想いを伝えましたが、相手にされませんでした。
その夜地震が起きて、ターヘレは母親を亡くし、おばあさんと2人暮らしになります。
ホセインは、おばあさんにターヘレへの想いを伝えますが、相手にされません。
その理由は、ホセインは字が読めないこと、そして家がないことでした。

映画の撮影の合間に自分の想いを必死に伝えるホセイン。
何も応えないターヘレ。
撮影が終わり、ターヘレはオリーブの林を抜けて帰っていきます。
もう2度と会えないかもしれないターヘレを、ホセインは追いかけます。

 

感想(これから観る人は読まない方が良いです。)

色々と考える余白があって、鑑賞後も「あーでもない、こーでもない」と考え、楽しめる映画です。


映画前半に、こんなやりとりがあります。

助監督のシヴァがターヘレを迎えに行くと、2階にいたおばあさんがこんな風に言います。

「今朝、ターヘレに水くみを頼んだのに、まだ1階に水が置いてある。足が痛くて取りに行けないよ。取りに行く間に鍋が焦げてしまうもの」

それを聞いたシヴァは、行間を読んで、水を2階に持って行きます。


このやり取りを見ていて、思わず微笑んでしまいました。
これが成立するということは、イランは相当ハイコンテクストな文化ですね。

おばあさんが婉曲的な表現でつぶやく。
でもそれを直接的に「下にある水を2階に持ってきてちょうだい」とは頼まない。

これって、ローコンテクストな文化圏では通じないのではないでしょうか。

イラン文化の一面を表現したシーンなのではないかと思いました。

同じペルシア語文化圏のアフガニスタンではどうなのだろう?という疑問も湧きます。同じようにハイコンテクスト文化なのかとも思いますが、多民族国家でそれぞれの民族にそれぞれの文化があった上でハイコンテクストな場合、行間を読み合うことで誤解が生まれそうな気もします。これから知っていきたいことのひとつです。)

 

ホセインは、自分は文字が読めないので、子どもができた時に勉強を見てあげるためにも、文字の読める(教育のある)美しいターヘレとの結婚を望んでいます。

ホセインはこう言います。

「文字が読める人と読めない人が

お金持ちと貧乏人が

家がある人と家がない人が

結婚して助け合えば 世の中は良くなるのに」 

 

ホセインは11歳の時から煉瓦職人をしていて、今は結婚できる年齢に達しています。
しかし、文字が読めない、家がないということを理由に、想いを寄せる人との結婚を認めてもらうことができません。

ホセインはターヘレに一目惚れしたんだと思いますが、もしかしたら彼の心の奥底には、文字が読めない自分への怒り、憤りのようなものを抱えているのかもしれないと思いました。本当は彼自身が、文字を読んで勉強したかったのではないかと。

監督はそれを分かっていて色々な質問を彼に投げかけたのではないのかと思いました。

 

映画の終盤では、オリーブの林をぬけていくターヘレを追いかけるホセインが、遠くからの視点(後ろから歩いてきた監督の目線でしょうか)で撮られています。

2人が白い点にしか見えないほど遠くに行ったとき、ターヘレの点が振り返って、ホセインの点と向き合い、少し間があった後、ホセインの点が斜めに私たち(監督?)のもとに駆け戻ってくる様子が描かれます
途中で転んでも、駆け戻ってくるホセイン。


実は私、ホセインは失恋したんだと思っていました。
「でも、失恋していたらトボトボ歩いてくるはず。転んでも駆けて戻ってくるということは、嬉しい報告があるからでは?」という意見を聞き、そうかもしれないと思い直しました。

その後、もう一度DVDを見直してみました。
ちょうどターヘレの点が振り返ってホセインの点と向き合ったところで、音楽の曲調が軽快なものに変わっていました。

ターヘレがホセインに何を言ったのか、言わなかったのか、あるいは何を示したのかは分からないのですが、ハッピーエンドかもしれません。
(観客に委ねられているので、本当の所はわかりません。)

 

今回も、地震後にもぬけの空となってしまった村と対照的に、そこに存在し続けている豊かな自然が描かれていました。

ちなみに、『友だちのうちはどこ?』に主演していたバーバク・アハマドプール、アハマド・アハマドプール兄弟の成長した姿も見ることができます。(何度か出てきますが、出てくるたびにちょっと嬉しいです。)

 

今日も読んでくださりありがとうございます。

心の栄養になる作品、ご興味ある方はどうぞ。

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